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Almost Always

ほとんどいつも

ソファで過ごすこと


素っ裸の女が、ソファからぼくに声をかける。シャワーを浴びてすっきりした頭
あまり、記憶力が良くないから、何をしていたのかついつい忘れてしまう。どうして、僕は床に転がっていたのだろう。起き上がって、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。

一気に半分ほど飲み干して、残りを彼女に手渡す。

いくら夏とはいえど、何も着てないのは可哀相なので、ブランケットをかけてやる。とはいえ、僕も何も着てなかったので、彼女の隣に潜り込む。

女の愛液の独特な匂いがした。乾いた匂いだ。ぼくの好きな匂い。勃起しそうになったけど、彼女は、またセックスをするような気分じゃないみたい。ぼくは、無理やり押し倒すっていうほど、獣になれない。でも、彼女が何を考えるか嗅ぎ当てる嗅覚は鋭い。肌の匂いから、女の機嫌を察することができると言ったら、友達に変な顔をされた。だけど、今のところ外れたことがないので、この感覚は重宝している。隣にいる彼女から香ってくるのは、満足感と心ここにあらず、という匂いだ。



ぴったりと毛布にくるまっていると暑くなってきたので、ソファから立ち上がった。そうして、窓を開け放って、扇風機を回した。八畳間のぼくの一人暮らしの部屋は、ソファとちゃぶ台があるくらいだ。布団をしまってしまえば、がらんとする。畳とソファの組み合わせをぼくも彼女も、とても気に入ってる。ソファの横にあるマガジンラックには、古本とレディスのファッション雑誌が、無造作に突っ込まれている。台所に冷蔵庫と電子レンジくらいはあるけど、ぼくの家にはそれくらいしか物がない。写真くらい飾ろうかなと思っていて、額縁をこの前衝動買いをした。まだ、写真をどうするか決めてないので、額縁だけが壁に掛けられている。





網戸越しに、アパートの裏庭に茂る木々の葉の触れ合う音が聞こえる。新緑の匂いが、風に乗って部屋に満ちる。ぼくは彼女の横で、夏だねと呟く。そんなことはわかっているわ。と言うように、彼女は瞬きを繰り返す。何回目かの瞬きのあとに、僕のほうを向く。僕の好きな、あなたと一緒にいるのが幸せでしょうがないっていう笑顔だ。顎に手をやって、やさしくキスをした。いつも思うのだけれども、好奇心はどこからやってくるんだろう。知らない世界を意識しようとするには、どれほどの準備が必要なんだろう。見当もつかない。



彼女は、両手を僕の首にかけて、ゆっくりと体重をかけてくる。そうして、僕を引き込むようにソファに倒れていく。上になった僕は、肘で体を支えて覆いかぶさる。

「重たくない?」

「重たくないわ」

彼女が、唇を離して、僕の目を覗き込む。黒い瞳は、よく見れば僕を反射させているだろう。忘れてしまいそうになるけれど、初めて身体を重ねた時も、彼女は僕の目を覗き込んできた。セックスのあとだった気がする。もちろん、目が合うことなんて、そう珍しいことじゃないのは知っている。ただ、想像してみてほしい。

深いキスのあとに、潤んだ瞳で、 あなたのことが愛おしくてたまらないわ、という視線が噛み合うのだ。控えめに言って、すごく幸せなことなんだ。そういった目を彼女はしている。

キスをしながら、僕は眠りこけそうになる。それほど、セックスが強くないので、体はへとへとになっているのだ。